傀儡化する傀儡師 芥川龍之介の文学
芥川龍之介の中期から晩年にかける文学作品に焦点をあて、従来の研究とは一線を画す多層的な語り構造と認識の変容を鋭く分析した学術書である。前著『芥川龍之介論―初期テクストの構造分析―』において初期の習作から「羅生門」、「手巾」に至るまでのテクストを解析し、語り手としての「作者」の介入や傀儡的構造に注目した一方、本書では、心理学、心霊学、催眠術など当時の思想潮流が反映された中期以降の作品群において、狂気や無意識といったテーマがどのように表出され、また、語りの多重引用や自意識過剰な懐疑主義が、作品内のミステリアスな空間をいかに形成するのかを考察する。