老いの輝き

平成語り山形県真室川町

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著者:野村敬子 杉浦邦子 
出版社:瑞木書房 慶友社 
価格:3,500円

発売日:2018年07月
判型:A5/ページ数:324
ISBN:9784874491898

内容情報(日販商品データベースより)

昔話採訪の誌上ライブを通し、昔話世界を楽しんでいただけたらと願う。昔話には語り手の体験や心情をも吐露され、面的な記憶の層の在り様も顕われている。DVDと連動する各人の昔話と語りを巡るエピソードを記させて頂いた。
 本書はさまざまな出会いの記憶をふり返りながら、思い出と昔話を記録して頂いた。
 伊藤寅吉さんのゆったりした語り口調には味があって独自の世界がある。佐藤信栄さんの風土と共にある語りは伝説とは何かを如実に明かし証す、確固としたものがある。佐藤壽也さんは祖母ゆずりの「狐のだん袋」を語られた。「毎晩寝る時に祖母が語り聴かせたからでしょう」と、幼児体験の確然たる姿を学んだ。
 本書の小松千枝子さんは黒田さんの語った「一つ目」の伝説を聴き、帰宅後、すぐその杉山神社採訪に出掛けた。東京の話を山形で聞いて東京で伝説体験とは、如何にも今日的で楽しい。
 維新も戦争も男性が担ったものである。その戦争に初めて敗けてくれたからこそ、女性は人間に成り得た。語り手の昭和も苦しい。学校に行かれなかった女性達が平成初期には幾人も見られた。この地の昔話が聴覚文芸として優れて見事なのは、文字を介さない継承がなされてきたからでもある。言語行動は人間の可能性を最も素朴に支える文化と私たちは考える。それであるからこそ、この地の口承文化は尊いのである。文字を良くしない年寄りからの享受という。その過去からは昭和時代の、のっぴきならない記憶もあふれ出る。藤山キミ子さんの太平洋戦争中女子挺身隊従軍、高橋重也さんの弟・重男さんの満蒙開拓少年義勇軍の従軍もつらい記憶であった。
 先人たちの記憶は本書でなければ扱うことが出来なかった。昭和四〇年代から交流を続ける奥灘久美子さんと正源寺住職・鮭延旭處師と佐藤陸三安楽城郵便局長の思い出には学問を積極的に受け入れた真室川の先覚者の存在を際立たせる。先人に導かれて「口語り」という領域を生みだした野村純一の当地での「鷹匠」との対面記録を収めてみた。
 外国昔話の地平としての山形県の国際結婚について考えてみた。
 平成は新しい昔話風土が始動したようである。里帰りで新たな韓国昔話を思い出したという、庄司明淑さんの語り、とおだ はる(遠田且子)さんが日本語の補強をされている。詩人しま なぎささんは中国の古いシンデレラ譚を詩作として子ども達に贈り物にされた。アラビヤ語で山形県の昔話を紙芝居制作と実践を続けている片桐沙早織さんの活動にも注目したい。
 昔話を「語る、聴く、聞く」とは一体どういうことなのだろう。荻原悠子さんは藤山キミ子さんたちの語りに再度耳を澄まし、聴き耳を欹てる。荻原さんを初めとして、真室川町に採訪を重ねる語り手活動の方々は、帰宅して体得した伝承文化の伝達、継承に励むことにやぶさかでない。昔話の存続は聴き手の心と共にあり、その心のかたちづくりは語り・聴く感動の共振によってのみ為し得るのかもしれない。本書は逝かれた方々をも含む真室川語りの皆さまと、それを支えた真室川風土にお届けする「感動の記憶集」である。

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