おさびし山のさくらの木
おさびし山にある一本のさくらの木に、旅人がたずねました。「ちらない花はあるのですか」
さくらはこたえます。「さいた花は必ずちります」
「もう会うことはできないのでしょうか」旅人にさくらの木はこたえました。
「会えますとも。生命はめぐりめぐるものですから。また生命の花のさくときに、……そのときのために、出会ったことをおぼえていましょう」
数年後、旅人がふたたび山をおとずれると、木はあとかたもなく消えていました。
いのちはめぐり、また新しい生命となってあらわれる。
1987年の初版から約30年、東日本大震災を経て、画家のいせひでこが生命と向き合い完成させた、
めぐりめぐる生命の物語。