旅するペンギン
詩集
著者:船田崇
出版社:書肆侃侃房 地方・小出版流通センター
価格:2,000円
発売日:2012年06月
判型:B6/ページ数:126
ISBN:9784863850804
ペンギン
大通りのスクランブル交差点を
斜めに渡っていると
真ん中にペンギンが立っていた
その手にアイスキャンディを持って
右に避けると右に行き
左に避けると左に行くので
どうにも進めなくなっているうちに
青信号はちかちか点滅し始めた
ペンギンはしきりに恐縮して
汗をかきながらぺこぺこ頭を下げるが
灼熱のアスファルトの上で
アイスはだらだら無残に垂れていく
結局ぼくとペンギンは
交差点の真ん中に取り残されたのだった
クラクションとともに
車列がぼくたちを挟んでいく
ぼくとペンギンは倒し損ねた
2つのボーリングのピンのように
並んで立っている
車列のスピードが景色を漂白していく
思い出したがぼくには
交差点の向こうに女が待っているはずだった
しかし向こう岸は少しずつ遠ざかり
女は手を振るが顔は霞んでわからない
気がつくと
女の顔さえも思い出せなくなっていた
対岸は夕闇に暮れていった
いつしかぼくたちは
激しい急流の中に立っていた
ふわふわ深い靄が立ちこめていた
左から首長竜が流れてきた
右からは装甲車
前から捻れた五線譜と噛みつきそうなビーナス像
後ろからは額から血を流した柱時計が
ぼくたちの耳朶をかすめていった
遠くを見つめながらペンギンは言った
あなたは一度も待ち合わせなどしていないのですよ。たった一つの約束を除いては…。
太陽が卵黄色に熟した夕べに
ぼくとペンギンは対のように
葦高い中洲に佇んでいたのだった
周囲は遥か南氷洋の懐かしい風景に変わった
あなたが歩いたどんな道も帰り道だったのです。鮫のような心に脅かされても
あなたは小石のように傷つくことはないでしょう。
狭い中洲を挟んで様々なものが流れてくる
廃屋
駄菓子屋の玩具
壊れたコスモス――
ところでペンギンは何処から来て何