2012年 4月号
木原浩勝Hirokatsu Kihara
都心とは思えないほど静かな住宅街に建つ、由緒ある公園と隣り合うマンションに事務所を構える。いくつもの人気怪談シリーズを手掛けてきた木原さん。執筆の際は「こう書くと決まれば頭の中で構想が出来上がっている」が、「パソコンは電源の入れ方もわからない」。諳んじる方が手書きより早いと、まずは事務所のスタッフがパソコンで「口述筆記」。その原稿を持って近所のファミレスに籠り、アニメソングを聞きながら校正を行うのは、集中できるのと同時に「怖いから(笑)」。
「隣之怪」シリーズ第四弾『息子の証明』は、体験者に取材した「実話」を基に、怪異の中に人の情を絡ませた「すぐ隣にある怖い話」十七編を収める。怪談は「語る」のが神髄と、トークライブを十五年間続けてきた著者ならではの文体は、まるで本の中から語りかけられているかのような臨場感。亡き息子の「存在証明」を感じさせる不思議な現象を母が語る表題作など、怖いばかりでない、この世ならざるものたちの切ない思いが詰まった世界を、ぜひご堪能あれ。
怪獣やアニメなど、幅広いジャンルに造詣が深いことで知られる木原さん。「日頃は特撮映画ばかり見ています。優秀な映画や画面を〈あー、すごい〉と何度も繰り返し見ることに平穏を感じるんです」。「考えるのが趣味。誰にもわからなくても自分が出した答えを知っていたいので、なんとなくとか適当にというのはあまりないです。〈考える幸せ〉を持っているので、退屈することはありません」。加えて料理の腕は玄人はだし。事務所スタッフの食事も全て木原さんが用意し、大変な美味なのだとか。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年4月号より)
今月の作品
- 隣之怪 息子の証明
- 私の息子は長い闘病の末、17歳と半年で旅立っていった。ある朝、仏壇の位牌が動いていることに気づいた。私のもとに戻ってきたのだろうか…。感涙必至の表題作ほか全17話収録。