2012年 1月号
『完全読本 さよなら小松左京』
未来への責任を体現した人
小松左京という名前を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
ベストセラー『日本沈没』の著者、あるいは大阪万博・花博などのイベントプロデューサー、または日本SFの推進者、テレビ・ラジオで見知った文化人……どれもが正解ではあるでしょう。しかし、その正解をいくつ並べても、小松左京の全体像を把握できたとは思えません。
小松左京とは何だったのだろう……今夏、訃報を聞いてからずっと、そんな思いが続いていました。
小松さんは、私が物心ついたときから「凄い」人でした。小説にとどまらない多量な文筆活動のほかに、多彩なジャンルでの活躍ぶり。しかし本当に「凄い」のは、それら活動の結果ではなく、そう動かざるを得なかった、小松さんの内面─エネルギーの源泉ではないのでしょうか。
この本を作る過程で、小松さんの著作をいくつか読み直してみました。そこで感じたのは、小松小説の登場人物たちは皆、「責任感」がある人間ばかりだということです。そして、その「責任感」が何なのかといえば、過去を無駄にしたくないという思いと、どんな状況でも未来を信じようという決意に他なりません。
つまり、過去・現在・未来という時間の流れは、小松さんにとっては漠然と身を任せるものではなく、人の(人類の)意思によって、懸命に繋げていかなければいけないものだったのです。
本書では、第一部には全集から漏れていた短篇やデビュー前のラジオ漫才の台本といった新発見となる小松さん自身の仕事を集め(手塚治虫との対談音源もCD化して付いています)、第二部では同世代の作家・学者から、小松さんに影響をうけたさまざまな人々(萩尾望都・庵野秀明・瀬名秀明などなど)までの多くの証言を網羅しています。
皆さんも、激動がつづく今だからこそ、小松左京という存在を、未来を見据えつづけた偉大な作家のことを思い起こしてみてください。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年1月号より)
今月の注目本
- 完全読本 さよなら小松左京
- 『日本沈没』を書いた小松左京はこんなに凄かった。稀有で知的・行動的な作家の全貌を伝えるパーフェクトガイド。新発見の短篇小説やラジオ台本、創作ノート、鼎談・インタビュー、友人・関係者の証言などで構成。