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特集

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八月の六日間
40歳目前、文芸誌の副編集長をしているわたし。仕事に恋愛、人生ちょっぴり不調気味な最近だ。だが初心者ながら登り始めた山々で巡り合った四季の美しさと様々な出逢いに、わたしの心は少しずつ開かれてゆき……。
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書かずにはいられない
〈美しい謎〉を発見、探索する作家の日常に〈ものがたり〉誕生の秘密を知る。お薦め本書評も多数収録、読書の愉悦を味わえる1冊。
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読まずにはいられない
作家になる前に書かれたコラム、ミステリの名作を紹介する書評も収録。博覧強記の書物愛と、温かな想いを伝える、初のエッセイ集。
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いとま申して
大正末期、旧制中学に通う少年は創作への夢を抱き、児童文学の現場で活躍する若者たちと親交を持つ。文化薫る著者の父の評伝風小説。
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鷺と雪
昭和11年2月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の3篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ“ベッキーさん”シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。
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飲めば都
人生の大切なことは、本とお酒に教わった―日々読み、日々飲み、本創りのために、好奇心を力に突き進む女性文芸編集者・小酒井都。新入社員時代の仕事の失敗、先輩編集者たちとの微妙なおつきあい、小説と作家への深い愛情…。本を創って酒を飲む、タガを外して人と会う、そんな都の恋の行く先は? 本好き、酒好き女子必読、酔っぱらい体験もリアルな、ワーキングガール小説。
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2014年 7月号

【特集】 夏山讃歌

登る人も登らない人もこれから登りたい人も。読めばきっと山が好きになる本、揃えました。

[インタビュー]北村薫 │ [エッセイ]樋口明雄 │ [ブックガイド]山に誘う本 山を楽しむ本

北村薫

北村薫『八月の六日間』
―いくつもの心の部品を落とし、また拾っては歩き続けるのだ。―

北村薫 Kaoru Kitamura
1949年埼玉県生まれ。早稲田大学卒。母校埼玉県春日部高校で国語を教えるかたわら、89年『空飛ぶ馬』で覆面作家としてデビュー。91年『夜の蝉』で第44回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2006年『ニッポン硬貨の謎』で第6回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)、09年『鷺と雪』で第141回直木賞を受賞。その他著書に『覆面作家は二人いる』『スキップ』『街の灯』『冬のオペラ』『いとま申して 「童話」の人びと』『飲めば都』ほか多数。

今回の夏山特集にあたり、「新刊展望」がぜひおすすめしたい一冊がある。北村薫さんの最新刊『八月の六日間』。著者3年ぶりの小説作品である。
北村薫さんが山登りの話? と不思議に思われる向きもあるかも知れない。でも読めばきっと、「これぞ北村薫ワールド!」と実感できるはず。心にしみわたる“山女子小説”だ。

心を開きに山へ行く

― 主人公の〈わたし〉は40歳目前。東京にひとり暮らし。まっすぐで不器用で、肩肘張って生きてきた。仕事は文芸雑誌の副編集長。上司と部下の調整役で、しんどいことも少なくない。かつては一緒に住む男がいたけれど、別れた。不都合の多い世の中。どんよりした、人生の不調……。
3年ほど前、そんなわたしに職場の同僚が声をかけてくれた。「山、行きませんか」。紅葉きらめく初心者向けコースで、運命的に遭遇した山の魅力。以来、わたしは心のおもむくまま、一人で山旅をするようになる。
〈結局、わたしは山に心を開きに行く。そして、一人の方がより、そうなる。だから、一人が好きなのだと思う。〉 
山の美しさ、恐ろしさ、たくさんの人との一期一会。さまざまな出逢いを経て、わたしの心は少しずつ解き放たれていく―。

北村 「山に登ることと人生を重ねあわせ、物語の行きつく先では、ストレスを抱えた主人公に何らかの解放を与えたいということが最初にありました。第1話で、欠け落ちた心の部品に気づく彼女が山旅を経て、さあどうなるか。どうしようもないことに向かい合い、人はどう生きていくのか。時の流れの中で、上ったり下りたりしながら……」

― 第1話「九月の五日間」は槍ヶ岳、北アルプス表銀座縦走ルート。第2話「二月の三日間」は裏磐梯スノーシューツアー。常念岳、北アルプス表銀座縦走ルートを行く「十月の五日間」。雪の天狗岳を歩く「五月の三日間」。そして最終話「八月の六日間」は双六岳、北アルプス縦走。さまざまな季節の5つの山旅が、時系列で描かれる。いずれも、主人公と一緒に山道を踏みしめ、コースを辿っていくようなリアルさが印象的だ。
ところが北村さん自身は、実際には山に登ったことがないのだという。

北村 「子どもが小さかった頃は高原なんかに行ったことがあるけれど、いわゆる“登山”と身構えたものは経験がないんです。でも、編集者には山に登る人たちが結構たくさんいて、話を聞いているうちに、素材として一度書いてみたいなと。
小説ですからね。人殺しをしていなくとも殺人ミステリーを書いたりするわけです。だから私の場合は“こたつ登山”(笑)。コースに関しては、実際に行ってくれた編集者から話を聞きました。そのうち欲が出てくると、こんなところに行ってきてほしいとお願いすることも。ラストシーンは、『槍ヶ岳がこんなふうに見えるところ』とリクエストして、行ってもらいました。
ただ、現地に自分が行っていなくとも、表現する言葉は私自身のもの。ですから、実際に山に登る方がこれを読んで、まさにこうだと感じていただけたなら、とてもうれしいですね」

― 山の描写ばかりでなく、主人公の心の動きも、誰もが共感できる部分は多いのではないだろうか。これまでの人生において生きづらさを感じたことなど一度もないという、並はずれた強い人以外は。

北村 「まさに私がここにいる。そんなふうに思っていただけたら、この小説は成功なんじゃないかな。心の内にあるさまざまな思いを、何らかの普遍的な形にして書きたかった作品なので。
生き難い人ですよ、この主人公は。もっとなあなあでやれば楽になるだろうに、なかなかそれができなくて。この年齢になってやっと少しわかってきたけれど、若い頃は今以上に肩肘を張っていた。いそうじゃないですか、こういう人(笑)。
山にも一人で行くのがいいと言う。でも一人旅だからこその出逢いもまたあって、その関わり方は、〈君子の交わりは、淡きこと水の如し〉。子どもみたいな素直なつきあいが、山ではできるんですね」

山という良き別世界

― 〈わたし〉が山に行くときの準備で、欠かせない事柄がある。それは、着替えから身の回り品、防寒具や雨具、ヘッドランプに地図に方位磁石、食料(お楽しみのお菓子含む)などなど、すべての持ち物を揃えたら、最後に、持って行く本を選ぶこと。持って行って、読めなくとも構わない。〈本は精神安定剤、もしくはお守り〉だから。
5つの山旅に彼女がどんな本を携えて行くのか。さらに、山小屋の休憩室の本棚でめぐりあう一冊は。それらも、この物語における読みどころの一つと言えるだろう。

北村 「どこに出かけるにしても、何か本を持っていないと服を忘れたような気になる……それは私の実感ですね。黒澤明の『用心棒』で、仲代達矢演ずる新田の卯之助が死の間際、“銃を握らせてくれ。そいつがねえと俺は裸みたいな気がするんだ”と言うけれど、そんな感じ(笑)。今日も電車の中で何を読もうか、本を選んできました。主人公が山に持って行く本を今度は何にするかと、作者も選んでいるわけです。
現実問題としては、山に持って行く本は大きさ、重さも気にしなければいけないから、文庫本で、短い作品がいくつか入っているものがいいでしょうね。ちょっとしたときに開けるような。行き帰りの車中で読むなら、大長編もいいかもしれないけれど。
山に持って行くのにふさわしい本を選ぶというよりはむしろ、そのときの自分がどんな状態かで、持って行く本は決まると思います」

― 山は、思索や内省が似合う場所。一人で山歩きをする〈わたし〉は、忙しい日常の中で見失いそうな自分と、山で向き合う。

北村 「山に登るときはほかにすることがないし、いろいろな思いが頭を巡るのでしょうね。苦しいことがあったときに苦しいコースに行くと、考えなくてもいいようなことまで頭の中に浮かんできたりして……。
大きな自然を前にすることで、自分の小ささも見えてくるんじゃないかと思います。山歩きをする道に人はいるだろうけれど、人口密度は街中ともちろん違うし、自然の風景の中に自分が置かれることで、日常と違ったいろいろなものが見えてくるのでしょう」

― 第4話「五月の三日間」にこんな場面がある。誰もいない残雪の山を、風景に目をやる余裕もなく、半分涙目で下っていくわたし。雪解け水が伏流するところを、ばっしゃんと踏み抜いてしまう。その清らかな水に触れたとき、心が動く。
〈ふと顔を上げれば、遠くの青い山々と、そのわずか上を横に行く一筋の白い雲。そして広がる大きな空。
こんな大きな風景の中に、ただ一人の人間であるわたし。それが、頼りなくもまた愛しい。しみ入るように思った。
―思い通りの道を行けないことがあっても、ああ、今がいい。わたしであることがいい。〉
山という、普段生きる環境と切り離された場所で、自分に向き合い、自己肯定を得た瞬間。

北村 「山は、良き別世界ですよ。何らかの解放を得て、また復帰してくる。行きっぱなしになってしまうわけにはいかないから、戻るために行くんです。
何かあったときには、少し脇道へ逸れてみる。身動きが取れなくなったら、違う場所にちょっと行ってみる。そういうのは結構大事なことなんだと思います」

― 山に、また行きたい。山登りは経験したことがないけれど、一度登ってみたい。どんな人の心をも山へと誘う小説だ。

北村 「初心者の方は、近くの低い山から始めてください。空気がちょっと変わるだけで、心がずいぶん洗われるだろうと思いますよ。
ただ、この本を読んで山に行きたくなったからといって、簡単な気持ちでは登山をしないでください。それだけは申し上げておきたいです。ここに出てくるのは上級者向けの山。こんな山にくれぐれもいきなり行かないように。この主人公も、最初の2年くらいは基礎訓練をして、低い山に登ったりしているんです。
山の事故のニュースも多いですよね。軽装でふらっと行ってはいけません。準備はしっかり。彼女はヘッドランプを山小屋に置き忘れて失敗しています」

― 山旅の前に持ち物を準備する場面は、遠足前夜のようなワクワク感があふれ、読んでいて楽しい。山行きを考えている人には実用的でもある。
山登りを知っている人はその魅力を再認識し、知らない人は本の中で登山体験ができる。登る人も登らない人も、そしてこれから登りたい人も。『八月の六日間』、ぜひ手にしてほしい。

北村 「辛いことや苦しいこと、受け容れ難いことを抱えながら、主人公は最後にある言葉に辿りつきます。彼女につきあってもらうことで、何らかの救いになる部分があればと思います」

(2014.5.9)

(日販発行:月刊「新刊展望」2014年7月号より)

[インタビュー]北村薫 │ [エッセイ]樋口明雄 │ [ブックガイド]山に誘う本 山を楽しむ本

Web新刊展望は、情報誌「新刊展望」の一部を掲載したものです。

新刊展望 2014年7月号
【主な内容】
[特集] 夏山讃歌
[インタビュー] 北村薫
[エッセイ] 樋口明雄
[ブックガイド] 山に誘う本 山を楽しむ本
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