2011年 10月
深谷 忠記Tadaki Fukaya
深谷忠記さんの仕事場は、東京・多摩の豊かな自然に囲まれた大規模団地にある。広場をはさんで向かいの建物にある自宅から、毎朝九時には「出勤」。夕方六時頃まで仕事をした後、近くのスポーツジムに泳ぎに行くのが日課だ。「水に入るのは独特の爽快感があります。体を動かすのは眠りにもいいですね」。執筆には体力が欠かせないため、日曜日には玉川上水や狭山丘陵にある森林公園を数時間かけて歩くなど、水と緑を楽しみながら健康維持に努めている。
『無罪』は、「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」とした刑法第三十九条がテーマ。わが子を手にかけながら三十九条により無罪となった女性や、息子を殺した犯人が同条によって減刑された新聞記者など、「加害者」「被害者」双方の視点から事件に関わる人々の苦悩と葛藤を描く。物語の核となるのは、複雑で不可思議とも言えるような人間の「謎」。常に「〈新しいもの〉を書いていきたい」と挑戦し続ける著者の意欲作だ。
構想を練る間、ノート一冊分ぐらいはメモをとり、作品の狙いを定めてから執筆にとりかかるという。「子どもの頃から物を作ったり、機械をいじるのが好きで、買ってきた物をそのまま使うことがあまりないんです。壊してしまうことも多いのですが(笑)」。深谷さんが座るイスは背もたれや座面を取り付けたり、机の下に膝あてを置いたりと、腰に負担がかからないようにした手製のバランスチェア=B資料を載せる書見台やクリップボードなど、机周りには効率よく執筆を進める工夫も。
(日販発行:月刊「新刊展望」2011年10月号より)
今月の作品
- 無罪
- 愛する息子と妻を通り魔に殺された男。我が子を殺しながら、心神喪失で無罪となった女。刑法第39条の壁で隔てられた、被害者、加害者双方の苦悩と葛藤を描いた、二転三転の書下ろし心理ミステリー。