【ロングインタビュー】百田尚樹さん「人生は、闘ってこそおもしろい。」
この秋、全国の書店で「まるごと!百田尚樹」フェアが開催されます。対象6作品と創作姿勢について、百田尚樹さんに語っていただきました。
◆chapter1◆ ―自著を語る―
『永遠の0』 若い世代に伝えたい、戦争
僕のデビュー作。もう7年も前なので自分ではずいぶん昔に書いた印象があって、それが今も多くの方に読まれているのは不思議な感じがします。
書き始めたのは49歳のとき。「年が明けたら50歳か。昔なら“人生50年”。もう人生終わってるんか」と思ってね。自分の人生半世紀を振り返ってみたら、テレビの世界でバラエティ番組を作っておもしろおかしく生きてきたけど、「これぞ」という仕事はしてなかったんじゃないか。これから後の人生は違うことをしてみようと。でも今さら別の商売も思い浮かばない。ただ、放送作家として文字だけはずっと書いてきた。それで、映像のない文字だけの小説で、一度勝負してみようと思ったんです。では小説で何を書くか。当時、父親が末期癌で余命半年でした。その1年前には伯父がやはり癌で亡くなっていた。親父と、3人いる伯父たちはいずれも戦争に行ってるんです。で、その時、あの戦争を戦った人たちが今、歴史から消えていくんやなと思いました。僕は小さいときから親父や伯父さん、近所のおっちゃんや学校の先生からも、戦争の話を普通に聞かされてきた。ところが親父も伯父さんも、孫の世代にはまったく語ってないんですよ。戦争体験者から話を直接聞いた僕らの世代が、自分の父親世代の話を子ども世代に伝えなければ、と思いました。それが『永遠の0』を書いたきっかけです。
最初はなかなか売れなかったんですが、最近は20代とか高校生も読んでくれています。「私たちは戦争のことを何も知らなかった」「祖父母の世代はこうやって生きてきたんだ」「おじいちゃんはこんなふうに戦ってきたのか」。そんな感想をたくさんもらっています。
『海賊とよばれた男』 かつて日本にこんな偉大な男がいた
主人公・国岡鐵造のモデルは、出光興産の創業者、出光佐三。その生き様を書きました。
きっかけは「日章丸事件」です。あるとき放送作家の同業者と雑談していて、「百田さん、日章丸事件知ってますか」「知らない。それ何?」。そこで彼女が日章丸事件のことを説明してくれた。最初は「うそー」と思ったんです。「そんな話聞いたことないで。テレビドラマか映画の世界の話やないの?」。ところが、調べてみたらすごい事件で、さらに細かく調べていくうちに、日章丸事件を計画立案・実行した出光佐三という人物に出会ったんです。その95年の生涯を知るにつれて、全身がかーっと熱を帯びるぐらい興奮しました。「こんな凄い日本人がいたのか!」と。そこから取り憑かれたように上下巻2冊を一気に書きました。
執筆中、胆石発作の激痛に襲われて救急車で運ばれました。医者は「肝臓と胆嚢が癒着しかかってる。一刻も早く手術しなさい」。でも手術したら10日も入院して執筆できない。それで出版が10日遅れる。だからとにかく書き終えてしまってからと思って、なんとか頑張りました。結局、さらに2回救急車で運ばれて、3回目には医者に怒られましたけど(笑)。でも僕は1日も早くこの本を出版して、多くの人に届けたかったんです。東日本大震災の後、日本人全体が自信を喪失しているように見えた。しかし、かつて焼け野原の日本を一から立て直した、こんな偉大な男たちがいる。その姿を知ってほしいと思って書いた本です。それに、『海賊とよばれた男』に出てくる男たちは、猛烈に働きます。人間はここまで働けるかというくらい懸命に働く。日本を再び立派な国にするという思いで死にもの狂いで闘っている。そんな人たちを書きながら、自分も少々の痛みくらい耐えてやる!と思ったんです。
『風の中のマリア』 オオスズメバチの女戦士
主人公のマリアはオオスズメバチ。物語に登場するのはすべて昆虫です。しかも昆虫を擬人化するのではなく、オオスズメバチを始め、昆虫の生態から一歩も外れることがない。ドキュメンタリーみたいな不思議な小説です。
テレビの仕事でオオスズメバチの巣を撮るというバラエティをやったとき、オオスズメバチのことを調べたんです。これほど驚異的な虫がほかにあるかなと思いました。そのときから、いつかオオスズメバチのドキュメンタリーを撮りたいという思いがずっとあって、でもその機会がないまま、僕は小説家になった。あのオオスズメバチの世界を小説で描こうとしたのが『風の中のマリア』です。小説にしたことで、ドキュメンタリー以上に世界が広がった感じがしますね。
ハタラキバチのマリアは、懸命に働く現代のキャリアウーマンみたいなところがあって、女性読者が共感してくれます。でも男が読んでも、「オレと一緒や」と感じるところがあると思うんですよ。ハタラキバチは、妹たちのため、巣のためにひたすら働いて、自分の寿命が尽きると次の代に入れ替わっていく。これってサラリーマンに似てると思いませんか。新入社員が先輩たちからいろいろ教えてもらって、やがて中堅社員になり、ベテラン社員となって大きな仕事をやっていく。定年退職したら会社から消えていくけど、会社はそのまま残って後の者が引き継いでいく。まさにマリアたちの生き方です。一方でおもしろいのは、一つの巣がだんだん大きくなって最終的に滅んでいく様は、まるで一つの帝国が版図を広げ、やがて消えていく、壮大な叙事詩のようでもあるんですよね。
中学生や高校生の子たちにも、ぜひ読んでほしい作品です。
『影法師』 侍の世界で描く、究極のかっこよさ
磯貝彦四郎、かっこいいでしょう。書きながら泣きました。
これは初めて書いた連載小説です。連載を始める前、担当者と飯を食いながら、「どんな話を書いてほしい?」と訊いたんです。そしたら、「百田さんが書くかっこいい男の物語を読みたいです」。それは僕も読みたいなあと。それからすぐに思いついたんですわ、かっこいい男のかっこいい生き方を。「よし、思いついた。ただし、このかっこよさを描くには現代小説では無理や。侍の世界でないと。だから今度の作品は時代小説でいく」。
それまで時代小説はあんまり読んだことがなかったんです。担当者には「時代小説は難しいですよ」と言われました。でもどうしても書きたくて、「連載までになんとか準備するから」と。それから時代小説を200冊くらい読みました。武士のしきたり、風習、当時の生活、言葉づかい、そういうのを徹底的に調べた。正直、しんどかったです(笑)。ある意味、いちばんしんどかったかも。でもこれを書いて、「これでいつでも時代小説は書ける」と思いました。と言うても、もう時代小説は書きませんけどね。
(2013.8.8)
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年10月号より)
インタビューはまだまだ続きます。続きは「新刊展望」2013年10月号で!
Web新刊展望は、情報誌「新刊展望」の一部を掲載したものです。
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- 新刊展望 10月号
- 【今月の主な内容】
[まえがき あとがき] 海道龍一朗 鬼謀の智将、その誕生前夜
[ロングインタビュー] 百田尚樹