2012年 11月号
やなせたかしTakashi Yanase
九十三歳。いまだ現役で精力的に創作を続けている。「目を悪くしたので、仕事をやめてのんびり暮らそうかと思ったのに」、出版依頼は引きも切らず。新刊、復刊が続く。
一九七〇年初版の短編童話集『十二の真珠』が復刊された。「死んだ子どもが生き返ったような気がする。でもこれを書いていたときの俺の考えは今でも変わっていないんだよね」。メルヘンに託した反戦・平和への強い思いが、読む者の心にまっすぐ届いてくる。やなせたかしさんの原点ともいうべき一冊だ。
元祖「アンパンマン」も収録。「もともと子どものために書いたものじゃない。本人が一番おもしろがっているんだ。子どものためとか大人向けとかあまり考えない。ところがアンパンマンは、やたら小さい子どもに受けてしまった。今でも理由がわからん」。来年は初掲載から四十年、アニメ二十五周年の節目の年。「残念だね。今が一番おもしろいときなのに、俺の命は間もなく終わりだから。何で死ぬのかな、なるべく楽に死にたいな」。そう語る姿は元気はつらつ、なのである。
「ほとんどの時間は寝てる。準寝たきり老人だ(笑)」。六時起床、軽体操をして七時半に朝食、そして朝寝。「昔は四十分くらいで目が覚めたんだけど、この頃起きられなくなっちゃって十一時頃まで」。昼食の後は昼寝、三時半からしばらく仕事、七時半の夕食までまた少し寝る。仕事をして十二時就寝。「死ぬ準備はできているんだよ。位牌も作って自分で拝んでる。もう十分いろいろやってきたし、この頃嫌な世の中だから、自分が死ぬのはいいんだ。ただ、後に残った連中が困ると思うと気の毒でね」
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年11月号より)