2014年 7月号
宮田珠己さん『いい感じの石ころを拾いに』
ユーモラスな「脱力系」旅ルポの名人。ベトナムの盆栽、巨大仏、変テコな海の生き物、ジェットコースターなどなど、バカバカしさいっぱいの対象に、独自の観察眼でユルく切り込んでいく─。そんな宮田珠己さんにしか作れない本がまた1冊、誕生した。今度は石。美しい鉱物写真集でも、理科の学習に役立つ岩石図鑑でもない。“石ころ拾い”紀行である。
糸魚川ヒスイ海岸、伊豆・御前崎、北九州の離島、茨城県大洗、津軽半島、そして北海道。日本各地へ、ただただ自分にとっていい感じのする石ころを拾いに出かけて行く。
「スベスベして、握ると気持ちいい石。おもしろい形、不思議な模様、磨くときれいになりそう。そんな石が好き。でも石の世界では、こういうのは無視されるんです」
趣味としての石の世界は、色鮮やかな鉱物からパワーストーン、化石、シブい水石(盆石)に至るまで、実はかなり広くて深い。澁澤龍彦や宮沢賢治も石マニアだったし、世の中に石好きは多いのだ。 「愛好家が多いのは鉱物系。でも僕は、ザクザクした石は痛々しくて。水晶なんかはきれいだけど、よそよそしくてしっくりこない。何でもない石がいいんです」
石ころを拾っている時間そのものも好きだという。
「鉱物だと、山に分け入って虫と闘って一生懸命掘って探して……。そこまで気合い入れて苦行したいわけじゃないから。石ころは、海辺にしゃがんで、たくさんある中から好きなのを選んで拾えばいい。疲れたら、海を見ながらぼーっと座っていられるし」
価値の基準はあくまでも自分。それも、石ころ拾いが宮田さんにフィットするポイントのようだ。
「専門家から偽物だと言われることもない(笑)。宝石のように何カラットで価値が決まるわけでもない。自分がいいと思えばいい。それに、完璧がないことも魅力かも。惜しい!と思いながらずっと見続けてしまいますね」
石拾い紀行の合間には、石好きな人々を訪ね、取材した。『不思議で美しい石の図鑑』の著書もあるブックデザイナーの山田英春さん、雑誌「愛石」の編集長、『日本の石ころ標本箱』の著者渡辺一夫さんなど。石に魅せられた人々と宮田さんとのやり取りは、なんとも楽しい。石の展示即売会「東京ミネラルショー」ルポも爆笑必至だ。
心が和む、きれいな石ころのカラー写真満載。
「10年の集大成です!という感じで、膨大なコレクションから厳選した石を載せたかったけど……実際は1年ほどの成果です。でも、価値のある石より感じのいい石を拾おうというコンセプトは伝わったんじゃないかな」
海風に吹かれながら、のんびり石ころ拾い。ぜひ体験してみたい。
「趣味としてかっこよすぎない、ショボさが混じるのも好き(笑)。道具も不要です。石を入れるビニール袋だけ用意してください。話してたら、僕もまた拾いたくなってきた〜」
(日販発行:月刊「新刊展望」2014年7月号より)