2013年 11月号
森沢明夫Akio Morisawa
自宅の執筆部屋。強い存在感を放つのは、カラフトマスとサーモンの剥製。知床で釣ったもの。「編集者を辞めた後、半年ほど放浪の旅をしたんです」。その後フリーライターを経て作家デビューを果たした。「学生時代は年に120泊くらい野宿生活。日本中を放浪して、きれいな川を探して、潜って魚を獲って。今も時間があれば出かけます」。書棚には小説ととともにアウトドア関連本がぎっしり。筋トレも欠かさない。「執筆で頭ばっかり使ってると身体が凝ってくるから(笑)」
『ヒカルの卵』は、山間の小さな集落に革命を起こしてしまった愛すべき主人公と仲間たちの物語。数年前に雑誌の取材で訪れた“卵かけご飯専門店”をいつか小説にしたい、とあたためてきたのだという。「頭で考えて生きるより、心に従って生きるほうが幸せになれると僕は思っています。そんなピュアな生きざまは、この主人公のようにまわりの人も巻き込んでいくのではないかと」。ほっこりとした感動の後に読者が思いを馳せるのは、それぞれの「幸せのかたち」かも知れない。
人の善意や心の美しさが描かれていること。それが森沢明夫さんの小説の持ち味だ。「新聞やテレビで見る現実は、汚いことばっかり。せめて小説の世界ではきれいなものに触れていなければ、と思うんです」「基本的に僕は、自分の子どもが将来読むことを想定して、作品を書いています。小説もエッセイも絵本もすべて。父ちゃんが死んだら、本を読んで人間の素敵な生き方を知ってほしい。そんな遺言です」。12月には絵本『虹の森のミミっち』(絵・加藤美紀 TOブックス)を出版予定。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年11月号より)
今月の作品
- ヒカルの卵
- 山奥の限界集落に「たまごかけご飯専門店」を作ってしまった無欲で能天気な男と、彼をとりまく愉快な仲間たちが大活躍。『虹の岬の喫茶店』『津軽百年食堂』の著者が贈る、命の味がする物語。小さな村の大きな奇跡。