2013年 5月号
中川李枝子Rieko Nakagawa
「ヴァージニア・ウルフが言っているわね、『女が仕事をするには自分だけの部屋が必要だと(『自分だけの部屋』A Room of One's Own)。ここはそういう場所。お客さんとお茶を飲んだりお話ししたり。子どものお客さんもよく来てくれます」。子どもの目線に合わせるように、物は低い位置に置かれている。オークヴィレッジ製の小型本棚数本にぎっしり詰まった絵本や児童書を、引っ張り出しては読む子どもたちの姿が目に浮かぶよう。執筆などの仕事は隣接する自宅の書斎で行う。
エッセイ集『本・子ども・絵本』の新版が登場した。初版は1982年。30年の時を経ても色褪せない真理が新しい読者に届けられる。「(新版刊行に際して)推敲は何度もしました。文章は相手にわかることが一番大事だから。(児童文学者の)石井桃子さんが常々おっしゃっていたのは『書き直すほど良くなります』。石井桃子さんからは大切なことをたくさん教えていただきました」。巻末の「本書に登場した絵本と本」リストには、時代を超えて読み継がれている絵本・本がずらりと並ぶ。
周辺は緑豊かで閑静な住宅街。「もうずーっとこの界隈に住んでいます。東京オリンピックを境にこの辺りもうんと変わりましたよ」。『ぐりとぐら』は今年が誕生50周年。「年を取るっていうのは悪くないわね。70を過ぎたら私もずうずうしくなって(笑)。威張れるのよ、経験しているんだから。もう一度若い頃に戻りたいとは全然思わない。子どもは昔を振り返らないし、明日しかないの。それが気持ちいい。私は子どもと一緒に生活してきたおかげで、気力が今も、ずっと続いているらしいのね」
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年5月号より)
今月の作品
- 本・子ども・絵本 新版
- 子どもにどんな絵本を選ぶか。ゆたかな心の体験を…。日本で一番多くの子どもに読み継がれている『ぐりとぐら』の作者の名エッセイに、新原稿を加えた改訂版。実妹の山脇百合子による挿絵も掲載。