2013年 4月号
『ゆびきり』
黒柳徹子さんもビックリ!
この新刊を女優の黒柳徹子さんにご覧いただいた時、開口一番おっしゃったのは、「こんな絵があったのね。初めて見ました。ビックリ!」という驚きの声。
いわさきちひろさんについて造詣の深い黒柳さんでさえ、気づかないほど埋もれていたさし絵でした。それもそのはず。美術館にもなく、現存するのは55枚のうち3枚のみ。それを今回、復元して刊行したのです。
この作品は、1950年代後半に書かれ、理論社から61年に出版されたものでしたが(今は絶版)、そのような事情になっているのに気づいたのは小生でした。昨年11月、別の仕事でちひろ美術館を訪ね、資料を読んでいると、作者の早乙女勝元さんのインタビューを発見。そこには、作者自らがちひろさんにさし絵を頼んだことが書かれていたのです。「え!」と、小生もビックリして状況を調べ始め、今回の出版に至りました。
作者の早乙女さんは、東京大空襲をテーマに『わが街角』(新潮社)など多数を上梓してこられた方。さし絵を描いたちひろさんも、黒柳さん著『窓ぎわのトットちゃん』(講談社)の装画・さし絵で広く知られています。
このお二人に共通していることは、東京大空襲を経験されていること。その痛切な体験をもとに早乙女さんはこの作品を書かれましたが、空襲のお話は最後の章「火の夜」のみ。全体の八割は下町での子ども達の元気で明るいお話です。
それだけに、戦争というものの残酷さと、戦争が奪ってしまうものが、楽しく温かな下町の世界、人々のささやかな喜怒哀楽であることを、この作品から知ることになるでしょう。
「国防軍」などと声高に叫ぶ人が現れ、平和を脅かすものがヒタヒタと迫りつつある今、ちひろさんが初めて東京大空襲を描き、さし絵に配したこの本が新たに世に出ることは、タイムリーだと思います。平和は平和の時にしか、守れない≠フですから。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年4月号より)
今月の作品
- ゆびきり
- 早乙女勝元 いわさきちひろ
- ただの一度しか交わさなかった“ゆびきり”…。ちひろの美しい挿絵が、下町のちいさな路地うらに、導いてくれる。少年たちの楽しくもあり、切ない物語。戦争は何を奪ってしまうのか。ふたりの共作が、今語りかける。