2013年 3月号
森浩美Hiromi Mori
作詞家・森浩美さんの家族小説シリーズ最新刊『家族往来』が出版された。「自分の中では作詞と小説でそんなに違うことはやっていないかな。最大の差は物理的なこと。書くというアウトプット作業に要する時間です」。八話収録の短編集は「CDアルバムを一つ作る感覚」なのだという。「作詞家が書いた小説と評されるのは本意ではないけれど、自分の文章を支えているものが三十年近くやってきた作詞であるのは確か」と自負する。その証が、音読によって美しく響く言葉たち。ラジオドラマや朗読会でも好まれる所以だ。
さまざまな家族模様を描いた小説群には、「どれだけ辛い状況にあっても最後には光が残る」ことが共通する。「解決しないまま背負っていかなければならないものがあるのが人生。でも、とりあえず光が見えたら歩いていけるかなと。ある意味、大人のおとぎ話ですかね」。日本の美しい四季の中での人の営みを綴る。人生のいろいろを経験し、親子の情がわかるようになった年齢の読者にこそ染み透る─そんなシリーズである。
自宅の書斎で深夜から明け方にかけて執筆することが多い。机上にはMacの大型モニターが二台。「片方でネットを見ながらもう一方で作業をする」スタイルだ。「Mac派。ドットが細かくて文字が滑らかに見えるのが好きで」。美しく整頓された棚の書類ケースには、作詞の仕事の契約書などが収められている。机まわりに家族写真。「娘が生まれてからは毎年、写真館で家族写真を撮っているんです」。家族との年中行事を大切にしている著者自身の姿が、小説の中にも投影されているのである。
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年3月号より)
今月の作品
- 家族往来
- 死に別れた母、妻。生きているのに会えなかった母。そばにいるけど折り合いが悪い父…。悩みも悲しみも喜びも、家族のなかにある。押しも押されもせぬ家族小説の定番。読むと元気がでる短編集に待望の最新刊。