2013年 1月号
朝井リョウさん 『何者』
大学二年生でデビューし「現役大学生作家」として活躍してきた朝井リョウさん。二〇一二年春に大学を卒業、現在は会社勤務と執筆を両立させる「兼業作家」である。最新刊『何者』は、社会人になって初の長編書き下ろし小説。題材に選んだのは「就活」だ。
「初めは〈就活小説〉を書こうと思っていました。でもプロットの段階で早速筆が進まなくなり……自分は本当に〈就活小説〉が書きたいのか? と思い始めたんです。そこでもう一度考え直したとき、僕が経験したのは就活というより『これからも自分が自分として生きていくこと、を考えること』だったんだなと気付きました」
「個人的には、この小説のテーマは、生きていくことそのもの」だという。現代の就活事情や就活生の心情をリアルに表現した一編。だが就活そのものは装置であって主題ではないのである。
巻頭にはツイッターアカウントのプロフィールが六人分。御山大学の就活生─拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良と、拓人の劇団仲間だったギンジのそれである。作中では、彼らの就職活動の軌跡、そして内面が、実生活と並行してツイッターやフェイスブックなどSNS上の言葉でも描かれていく。今や彼らの日常に当然のように存在するSNS。けれど著者はこんなメッセージを込めてもいる。
「ツイッターやフェイスブックは、短い言葉とちっちゃな写真だけで構成されていますよね。みんな、その中にある選ばれた言葉だけ見ているような気がして、怖くなったんです。選ばれなかった、捨てられてしまった何万字のほうが、その人のことを雄弁に語っていると思うのに、あんなほんの少しの情報だけで人を判断するようになってきているとしたら、それはとても危ないことだと」
自身の就活体験も当然、作品の随所に反映されている。
「具体的にあったことというよりは、感じた空気や就活生を取り巻く環境、その底に流れている毒のようなもの……実際に就活をしたから書けたシーンやセリフ、SNS上の会話はたくさんあります。ただ、『就活あるある』『SNSあるある』が集まっただけみたいな小説になってしまわないように、すごく注意しました」
就活が身近な若者にとっては、痛みを伴う読書になるかもしれない。あるいは過去の就活体験を思い出して胸を締めつけられる読者も多いだろう。だが、「お願い、目をそらさないで読んで」という著者の思いをどうか受けとめてほしい。
「朝井リョウの決意の書です」と宣言する。
「社会人になって思ったのは、自分は作家の仕事を愛してやまないんだということ。会社がイヤだとかそんな話ではなく、作家の仕事に就けていることはなんという奇跡だろうと。めちゃくちゃ書いてめちゃくちゃ活躍したい、と謎の欲が生まれました(笑)。書く時間は学生時代より圧倒的に少なくなったけど、いっぱいいっぱい書きたい! 強くそう思っています」
(日販発行:月刊「新刊展望」2013年1月号より)
今月の作品
- 何者
- 就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。自分を生き抜くために本当に必要なことは何か。影を宿しながら光を探る就活大学生の自意識をあぶりだす、リアルで切実な書下ろし長編小説。