2012年 12月号
『本屋さんで待ちあわせ』
いますぐ本屋さんに走りたくなる本!
それにしても、本の好きなひとである。本に愛されているひとでもある。
二〇一二年度本屋大賞を受賞した『舟を編む』の作者である三浦しをん氏は、まるで食事や睡眠を摂るように、本と漫画を読み、語る。活字がなかったらこのひとははたして生きていけるのか、と心配になるほどだ。部屋の中のみならず、増え続ける本がベッドの右半分を侵食しているとさえ聞く。いわゆる添い寝状態(伝聞情報ながら事実らしい)。
そんな、ちょっと危ないくらいの本好きとして知られる著者の書評と本についてのエッセイなどを集めたのが、本書、『本屋さんで待ちあわせ』です。古典からいわゆるマニアかつ濃い口系の漫画までを日々読みつくす著者の推薦する本のジャンルは幅広く、意外なところでは『女工哀史』(細井和喜蔵著)、好きすぎて選びきれない丸山健二の作品群、思わず主人公を励ましたくなるコミック『きのう何食べた?』(よしながふみ著)、短歌への愛にしびれる穂村弘『短歌の友人』、そして知ってるようで実はよく知らなかった『東海道四谷怪談』(鶴屋南北著)……読んだことのある本も、今までスルーしていた本も、三浦しをんという本読みの目と言葉を通して紹介されることでまったく新しい輝きを放ち出すから本当にすごい!
さらに、編集作業の終わり頃、「うーん、やっぱり漫画のことを語り足りなかった」とつぶやき一気呵成に書き上げた二十ページにわたる「おわりに」=「私は最近このような本や漫画を読みました」は、ある意味最高の読みどころ。
本の好きなところは「ほかに道具も要らず、一人で楽しめるところ」と「だけどその楽しみをだれかと分かち合うこともできるところ」。そう語る著者の言葉にうなずく読者も多いのでは。
読んでいるとむらむらと本屋さんに走りたくなる本。書評集なのに大爆笑できるのも、しをん師匠ならではです。
では後ほど、本屋さんでお会いしましょう!
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年12月号より)
今月の作品
- 本屋さんで待ちあわせ
- 三浦しをん
- 口を開けば、本と漫画の話ばかり。『舟を編む』が2012年本屋大賞に輝く人気作家が愛をこめて語りつくした、活字と漫画とエトセトラ。本にまつわるエッセイや書評、読売新聞に掲載された書評などを収録。