2012年 10月号
『洋食屋から歩いて5分』
街を歩き、街で食べる
このさい言いたいことがあります! 最近、文芸書単行本の値付けでとんでもない高い本があり、なんのつもりなのか、理解に苦しむ。
四六判ハードカバーの二百ページちょいの本で、二千二百円とか。読者の皆様にも声を大にして申し上げますが、本を制作している側からいえば、専門書でもないかぎり、また、印刷ミスでもない限り、ほんとはそんな値段になることはありえないのです。
片岡氏の他社の近著が、やはり二千円超え。今回の本も初版部数は順当なところですが、千三百円です。まず常識的な定価をつけることから考えました。
だって料理もそうでしょ? 普通の料理が異常に高かったらイメージ悪いでしょ?
片岡義男氏は知る人ぞ知るグルメで、その文章は、今、右に出る人はなかなかいないと思います。本書の初めにある、マウイ島にトマトを食べに行く話とか、十条銀座で失恋して餃子を食べる話とかですね。片岡氏の文章にはいつもストーリーの一端として食事が出てくるのですが、小道具としての食べ物が、みんな際立っている。三十年前に喫茶店に忘れていった本を、店で返してもらう話。そのころ通った店のウエイトレスに交差点で再会する話も。街と店と、人生にまつわる美味しいエッセイを集めました。書き下ろしもあり。
片岡氏と浅草の蕎麦屋などによく行っていたころ、本人に、食べ物の本をお出しになったらいかがですかときいたところ、それだけは嫌だとおっしゃっていた。なんとなく気恥しいと思っていたのだろうか。あれから十年。やっと本に出来て、感無量です。
装丁と装画も片岡氏推薦の新進気鋭のデザイナー、永利彩乃氏を起用。これも定価と同様、まっとうで渋い仕上がりになったと自負しております。
(日販発行:月刊「新刊展望」2012年10月号より)
今月の作品
- 洋食屋から歩いて5分
- 今、美味しい「食」エッセイをといえば、片岡義男。街で歩き、街で食べる。希代のエッセイストの食べものにまつわるエトセトラ。「AZUR」「四季の味」などに掲載したエッセイを中心にまとめた1冊。