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[BOOKデータベースより]
硝子職人の父はいつの間にか「箕島家」からとり除かれてしまった。笑顔が増えた母、家には寄り付かない姉の鏡子と祐子、ときどき現れる「ミシマ」さんという男性。純子だけが母の視線を受けながらずっと家にいる。あるときから純子は父の「コンセキ」を辿り始め…。第42回すばる文学賞受賞作。
[日販商品データベースより]【第42回すばる文学賞受賞作】
――純子ちゃんもあるやろ、お父さんに有罪だしたこと。
硝子職人の父はいつの間にか「箕島家」から取り除かれてしまった。工場(こうば)で汗を流して働く以外は縁側から動かず、家族を見なかった父はどこへ行ったのだろう。
笑顔が増えた母、家には寄り付かない姉の鏡子と祐子。ときどき現れる「ミシマ」さんという男性。純子だけが母の視線を受けながらずっと家にいる。大好きなレーズン、日課の身長測定、ビーカーで飲む麦茶、変わらない毎日の中、あるときから純子は父の「コンセキ」を辿り始める。
日本のどこかで営まれる家族の愉快でちょっと歪んだ物語。
【受賞のことば】
蝶でも活字でもなく、白球を追う少年だった。だから自然と将来は阪神の四番ときめていた。やがて白球はバスケットボールにとって代わった。甲子園で虎党からやじられることも、カリフォルニアのオラクルアリーナでダブネーションから大歓声を浴びることも、自分にはどだいむりな話だということは早々に悟った。
でも物語のなかでは、どちらもかなえることができるらしい。小説については伝言ゲームに似ている、と最近思いはじめている。頭のなかにあるイメージの断片を抽出し、言葉に変換して、ひとつの意味のある文字列にしていかなければならない。「さっさと期限切れのセキュリティソフトを更新しろ」と訴えてくるパソコンに向かって、伝えるべき言葉を必死で探りながら、ああでもないこうでもないと奮闘する。
そうして、その言葉は編集者に伝わり、読者に伝わる。空は青い、と伝えても、赤だったり、白だったり。受けとられ方はさまざまだ。そこが小説のおもしろいところなんだろう。いまはこの伝言がはじめて読者まで届くことがうれしい。
うまく変換できるか悩んでいる私が、それでもいま正しく伝えられる言葉があります。編集部のみなさま、選考委員の先生方、この選考に関わられたすべての方へ。
心から、ありがとうございました。
【著者略歴】
須賀ケイ(すが・けい)
1990年京都生まれ、京都在住。龍谷大学社会学部卒。今作で第42回すばる文学賞受賞。