ユーザーレビュー (2件、平均スコア:4.5)
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- Katsuei
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夏目漱石に思いを馳せる
昨今の日本の教育は、国際社会に対応するためにはもっと英語に重点を置くべきだと言う事になり、小学校でも英語を教えるまでに改革された。
だが国語教育はどうだろうか。まるで日本語は自然に覚えると言わんばかりにないがしろにされてはいないだろうか?
口語文で記述された近代の小説が読める事は、日本の高い識字率を持ってすればごく当たり前の事であろう。
しかし、読み継がれるべき文章は、日本の古典文学の中にあり、それを理解できる能力は自然には身に付かない。
日本において万人がバイリンガルになれると私にも思えない。
国際舞台で交渉にあたる人材を全員が目指す必要もない、英語教育は一部のエリートを教育することに力を注ぐべきではないだろうか?
さもなくば、本来の日本語は亡びてしまうと私も思う。最後に、夏目漱石の小説に対する解説は非常に興味深い内容であった事を付け加えたい。
- beapea
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自分の体験と史実、文学への思い入れと客観的な視点のほどよいミックス。
著者は思春期をアメリカで過ごし、「英語になじめない」まま日本文学をよみ漁り、さらには英語からの逃げ場としてフランス語を学んでいます。つまり、日本語、英語、フランス語という3つの言語が、実体験と強く結びついた形で体の中にしみ込んでいる人です。
だからこそ、「国民国家と国語」「各言語間の力関係」など無機質になりがちなテーマを、自分の体験という豊かな肉付けをもって語れていると思います。
明確な結論を求めている方には読みにくい内容かもしれません。おそらく筆者は、「言語」や「国家」という結論の出ない大きなテーマに、正面から挑みたかったのだと思います。こういう大きなテーマを論じるにあたっては、筆者が培ってきた経験が大きな武器になっていると感じました。
そして著者のもう一つの武器は、近代日本史(とりわけ明治維新前後の文学・言語史)に対する造詣の深さ。全体を通じて、読みごたえのある言語論だと思います。
著者は近代日本文学やその文体などをこよなく愛する一方で、「日本人が母国語に対して持つ愛着」のようなものから離れ、より客観的に「日本語」を見つめる冷静な視点も持っています。世界の様々な言語― 杉並区の人口と同程度の人数の話者しかいない言語や「公用語」とされながらもそこまで普及していない言語など― の存在に目を向けたうえでの日本語論は、非常におもしろいです。
本書の重要なテーマのひとつは、当然、タイトルにもなっている「日本語が亡びる」ことへの危機感やそれに対する提言です。特に本書後半は、「憂日本語論」としての色合いが強いかもしれません。
しかし、国際社会における「フランス語」の地位の話や開国期の「漢字廃止論」の話、今本当に身につけるべき英語力についての話など、各所にちりばめられた話も面白く、ただの「憂日本語論」をこえて読む価値がある本だと思います。
[BOOKデータベースより]
「西洋の衝撃」を全身に浴び、豊かな近代文学を生み出した日本語が、いま「英語の世紀」の中で「亡びる」とはどういうことか?日本語と英語をめぐる認識を深く揺り動かし、はるかな時空の眺望のもとに鍛えなおそうとする書き下ろし問題作が出現した。
1章 アイオワの青い空の下で「自分たちの言葉」で書く人々
[日販商品データベースより]2章 パリでの話
3章 地球のあちこちで「外の言葉」で書いていた人々
4章 日本語という「国語」の誕生
5章 日本近代文学の奇跡
6章 インターネット時代の英語と「国語」
7章 英語教育と日本語教育
「西洋の衝撃」を全身に浴び、豊かな近代文学を生み出した日本語が、今「英語の世紀」の中で亡びるとはどういうことか。日本語と英語を巡る認識を揺り動かし、はるかな時空の眺望のもとに鍛え直そうとする問題作。〈受賞情報〉小林秀雄賞(第8回)